連夜、息をひそめ

鏡面で赤い双眸が揺らいだ。

どんな暗がりでもこの瞳だけは失われない。


8つの時に一つ、この眼を潰した。


鏡面に指を這わせ抉る。

爪がわずかに削れるような気がした。

暗い顔の中に傷を負って歩いているように

以前存在した弟の姿が動いた。

それは12の時に潰した光。


どんなに鏡が光を反射したとて

返せぬわずか落ちていく光は0.002%。

これが真神糺人を傷つける。

これが真神糺人を殺す。

あの弟の名はスウであった。

どう書くのかさえ知らない。

10歳だったのに、2歳しか違わない自分の

半分ほどしか背丈はなかった。

スウは母の生き写しであった。

だからなのか知らないが母はスウに構ってばかりだった。

他の兄弟が母と並んでもちっとも家族には見えなかったが

スウと並ぶと二人は魂の爪先まで同じように見えた。


「あざとくんはその点、良かったな!」


「父様と寸分違わず」


瞳以外はそっくりだよ。



部屋の中で呟けば言ってもいない言葉が聞こえた。

夜はどうして他の誰かの声が聞こえるんだろう。

鏡面の中に消える光が囁くのだろうか。

鏡に眼を閉じた額をつけた。冷たい。


もう寝なくてはと額を離そうとしたら双眸が語る。


「(それで最後の目だから。)」




連夜、息をひそめ。

Short Story

D'holbackey

0コメント

  • 1000 / 1000